令和の時代には、人間達は病も災害も魔物の存在すらも恐れることがなくなり、人々は特殊な力や信仰・希望を失った。
長く続いた戦乱が終わり、世界は平和になりつつあったが、そんな安穏は、人々から夢や欲望を削いでいった。
野望を抱くことがない、争うことを忘れた人々は、信仰や特殊な力を失い、人為らざるモノたちの存在を無いものとしている。
科学が信仰や伝統を淘汰し、人為らざるモノたちは、行き場を失い、弱っている。
人でありながら特別な力に恵まれ、神に愛され神事を司った血族と言われている「神月」
神が憑くとの謂れから、その血族に生まれる子供は特殊な能力を持って生まれ、この国の発展・豊穣を支えて来た。
神月(かみづき)に産まれる子供は、人の世と人為らざるモノたちの世を繋ぐ架け橋-
人と人為らざるモノが互いに共存する為、発展する為の誓約を結んで来た。
あくまでも、互いに不可侵─交わらない、使役し合う契約上の関係─の下に、互いに理のある関係を築いていたのだが…
神月の現当主、神月御門は、淫魔の女王と恋に落ち、理を破り淫魔との子をつくった。
禁忌の子として産まれた「美夜」は、人の世界で育てられてはいるが、次期淫魔の女王となる存在。
美しく、人の欲望を食らい、さらに美しく成長する淫魔-
類稀な二つの才能を受け継ぐ彼女は、まさに天性のサラブレッドであり、将来、人の世でも淫魔の世でも「女王」となるべく存在なのだが…
女王候補故に、上質な人の欲望が無ければ、病に倒れ、老い、朽ちてしまう。
人為らざるモノたちの命は永遠でもあり、その反面で有限でもある─
人が信仰を止めた時、人が欲望を失った時、人が夢を失った時、
それを糧にする彼等は、命を失うのが摂理なのだ。
人間が、食べ物を食べることと同じように、彼等にも欲望や夢や信仰や愛─
必要なものを失うと、彼等も命を失ってしまう。
美しく成長した「美夜」は、人からの欲望の供給がなければ、死んでしまう。
──美夜を絶対に死なせない──
同じ思惑を持ったモノたちは、美夜を生かすために、どんな手段も厭わない。
そして、美夜を女王として認めたモノたちは、美夜が女王にならなければ、その命を失う―
女王の勢力に入れば、強い力は約束される変わりに、生死を共にする。
美夜に魅了されるのは、人間ばかりではない。
女王の血を受け継ぐ彼女は、人を魅了する力が強く、その色気や香りは、天性のもの。
種族を超えて、彼女の美しさの前には魅了されてしまうのだ。
元々は、神事を司る社の出身
神に愛され、神が憑くと謂われたことから「神月」を名乗る
産まれる子供は、男女関係なく特殊な力もつ。
予見・式神使い・千里眼など。
今は、大手企業をいくつも経営し、その裏側で人為らざるモノの保護や研究をしている。
神月の分家であり、巫女や神事・祭事などに仕える仕事をしてきた一族。
神月の護衛や後ろ盾を務め、代々神月の一族を守ったり、特殊能力を持つ子孫を残す役目をしている。
元々は、神月の許嫁だった母が愛妾として産んだ子供。
神月の養子には入り、当主候補としての教育は受けているが、月城を名乗る。
父や淫魔、美夜を憎む一方で、美夜を誰よりも愛している。
悪魔・魔物・妖精・妖・鬼・モノノ怪、いろいろな呼び名を持つ人ではないモノたち―
人間達の心が具現化し、生まれた生き物であるかもしれない為、生きる為、成長する為には人間の上質な欲望や愛が必要だとされている。
人間が信仰や供給すべき糧を忘れた時、彼等は、存在できなくなってしまう。
「いないもの」と思われている限り、彼等の存在は在るとしても「無い」のかもしれない。
淫魔とのハーフである美夜を生かす理由-
美夜の淫魔の力、魅了があれば、人間の世界を支配することが可能。
美夜を当主に据えて、世界を牛耳りたい。
元々は、神月の懐刀であり、神月を支え続けた分家の為、美夜の存在を消し、元ある形「陽凰」を神月の当主にしたい。
美夜の暗殺、人為らざるモノは使役すべきモノと考えている。
強い王候補につき、強い力を得る。
強いモノには従い、強くなること・生き残ることしか考えていない。
強い王につけば、命は長らえ、弱い王や人に使役されると存在を失ってしまう。
分家、妾腹に産まれたコンプレックスから、父や美夜への憎悪が深い。
本家と分家の間に板挟みで育ち、人の心を亡くしている、美夜を誰よりも愛している
「陽」の名を与えられたとは思えない日陰の存在。
「陽凰、こんな招待状を出してどうする心算だ?」
「叔父上…あなたは、美夜の味方だと思っていましたが?」
感情を剝き出しにして、招待状を握りつぶした叔父とは違い、冷淡な口調で返す男の手にはワイングラスが握られていた。
窓際から眺める景色には、多数のビルが立ち並び、
─オフィスビルの一角だろうか─都会のネオンが煌めいている。
「あの娘が生き残ったらどうするんだ!?」
「その時は、その時ですよ。 …人は、牙を削がれている。誰が、この平穏な世界で戦う覚悟があると思います?」
─アナタの夢を叶えます─
我ながら胡散臭いDMだ。
美夜を生かすためには、大量の人間の欲望が必要だ。
この世界の人間達は、絶望している。
平和になったが故の、無欲さ、争いの無さを良しとする傾向。
人間とは、もっと欲深く、傲慢であるべきだ。
その欲や夢や信仰を亡くしたから、人為らざるモノたちは、生きる場所を失った─
「この絶望的な時代に、人間が女王の命を維持できるほどの「欲」や「希望」を持っているのなら、見てみたいですね」
妾腹の子として産まれたとは言え、苦労なく育っただろう。
それでも尚、産まれた境遇を呪わずにはいられなかった。
──詭弁だ。
美夜を愛している─
美夜を、絶対に死なせない。
その気持ちに蓋をして、仮面を被る。
神月の当主になるよりも、美夜を命を繋ぐことを選んだ。
「どんな夢を魅せてくれるだろうね……」
永遠に続くような夜の闇…
都会は宝石のようにネオンがキラキラと輝いているのに、なぜか暗闇の中に居続ける心。
「叔父上、私が美夜を娶るか、美夜を懐柔すれば良いだけのこと─
勿論、死んでくれたほうが、月城の為にはなりますが。
あの力を殺すには惜しいかと。」
危険分子も、味方であれば心強い。
誰が味方で、誰が敵か─
分からない世界で、ずっと生きてきたからこその処世術。
「ご安心下さい。 月城の地下牢へ監禁すれば、彼女はたちまち力を失うことでしょう。
我々は”いつでも出来たはず”─容易いはずなのに、どうして"出来なかった"かを、逆にお伺いしたいですね?」
意地悪く、わざとらしく言うと叔父は眉を潜めたが、あくまでもパフォーマンスなのだ。
彼にも「苦言をした」と言う事実が必要で─人の世界とは、そういう「形式」がとても重んじられる。
責任逃れ─とも言うのだが、分家のまま終わるような男と俺は違う─陽凰は、そう思った。
「神月を正しい形に取り戻す─月城の悲願は、必ず成し遂げます。」
月城は、神月の為に生きるモノ─
本家だの分家だの、人間だの人為らざるモノだの、俺にはどうでもいい。
─美夜を絶対に死なせない。
その為なら、どんなことでもしよう。
どれが本当で、どれが嘘なのか、もう─どれが本当か分からなくなった唇が弧を描く。
月の船のように浮かんだそれ─三日月にも見える歪な笑み─が、ワイングラスへ口付ける。
愛しい人に口づけるかのように........